遊び心をくすぐる蔵の宿
蔵のカタチを柔軟な思考で展開する
綾川の豊かな恵みを受けた、田園風景が広がる坂出市加茂町。北には五色台の山々を望み、町内を走る国道11号線のおかげで、東へ西へと利便性も高い。
「がもう家」は、二〇二二年七月末からこの地で旅館業を始めた。もとは明治時代に建てられた大きな醤油蔵だったという。外壁のグレーの漆喰が、重厚なヴィンテージ感を醸し出し、なんとも言えない味わいがある。
「蔵は宿泊施設にしたら」。
思いもよらなかった知人の一言に、そんな宿泊のニーズがあることを知った店主の田村正太郎さんは、素直に面白いと感じたという。奇しくも二〇二二年は三年に一度開催される「瀬戸内国際芸術祭」の年だったことも背中を押した。
同じ敷地にある母屋もカフェにするため、思い切って同時進行でリノベーションに踏み切った。着工が二月だったのにも関わらず半年で施工が終わったのは、できるだけ基礎の素材を残し、あるもので補い、解体した時に出た建材をリサイクルさせたことも要因の一つだろう。
蔵の中は土壁で二部屋に分けられていたので、そのまま二組が泊まれる宿にした。
宿泊客が安心して泊まれるよう、風呂やトイレなどの設備は新しく、天然の杉板で床を張り、コタツを置いた。蔵のつくりや田舎の良いところを感じながら、ゆっくり過ごせる空間をめざした。目を引くのは入り口の二重構造の扉に取り付けた忍者扉だ。大人でも思わずテンションが上がるような仕掛けがあちらこちらに見て取れる。
「白冠」と「綾織」というそれぞれの部屋の名前は、かつてこの蔵で製造していた醤油の商品名からもらったもの。受賞年号が大正と記された賞状を見せてくれた。「宿泊客には、母屋の裏の中庭を貸し出してバーベキューもできるように考えています。子ども連れの家族だったり、外国の方にも喜んでもらえるような宿でありたい」。
先日は、四国遍路巡礼に来ていたデンマークの方が宿泊してくれたと楽しそうに笑う田村さん。
母屋の裏の中庭からは、黄やオレンジに衣替えした烏帽子山が見える。清々しい風と穏やかな景色に、至福の時間が詰まっている。
〈リノベとさぬき暮らし File-62〉