味わい深い二つの文化が育む豊かな暮らし
懐かしさのなかに異国の空気を纏って
お店の道案内には「イサム・ノグチ庭園美術館横の舗装されていない道を、そのままお進みください」とある。ゆっくり車を走らせると、つい先ほどまでの道の両脇に大きな石が積み重ねられた景色から一変、木々のトンネルから、やがて車高より背が高くなった草の間道に出た。伸びたすすきが車の屋根をそっと這う。その路の先にあるのが、モロッコラグのお店「MAROC(マロク)」だ。
石壁のある、ゆったりとした勾配のアプローチを登りきったところで、あまりの眺めの良さに一つ大きく深呼吸をした。暫く見とれていると、楽しそうなアフリカン調の音楽がかすかに聞こえてきた。振り返ると、昔ながらの日本家屋があり、中からのぞくオレンジ色の漆喰壁に一気に心惹かれた。
MAROCオーナーの川越優さんがこだわるのは、家のために織られるといわれるボ・シャルウィットというモロッコのラグ。モロッコベルベル村でボ・シャルウィットの全貌を知った川越さんは、このラグはベルベル村でしかつくることができないと実感し、ラグ作家ではなく、バイヤーとしての道を選んだ。
三年の間、自然の中で住居兼お店ができる場所を探していた川越さんは、一目で景色の良いこの建物に魅力を感じたという。何枚もの色を積み重ねたラグの奥の開け放たれた掃き出し窓からは、牟礼の町並みを抜け、屋島まで望むことができる。
「二階もどうぞ」と言われ、アフリカの漁船で使われていたという棒の手すりを頼りに、ミシッという音を立てながら階段を上った。そこには、“現し”の緩やかな曲線に沿うように飾られたモロッコの生活雑貨がある。ふと吹き抜けを見下ろすと、丁寧に編まれたランタンが梁の間からふわふわと風に揺れていた。
モロッコ、、、これまで訪れたことも詳しく調べたこともない未知の国。それなのに、MAROCにいるとなぜかとても身近に感じた。木々に恵まれてきた日本の暮らしと砂漠で発展してきたモロッコの暮らし。そのまったく違う二つの暮らしが、何の違和感もなくここに交わっている。MAROCが提案する「本当の意味での豊かな暮らし」は、土地や文化を超えて紡がれていくのだろう。
〈リノベとさぬき暮らし File-15〉
MAROC