あるがままを受け入れて楽しむ古民家リノベ

あるがままを受け入れて楽しむ古民家リノベ

託された古民家の可能性から感じた、自分らしい活用法

File.62で紹介した、蔵の宿「がもう家」敷地内にある「古民家カフェ がもう家」は、江戸時代に建てられた大庄屋だった蒲生家屋敷の母屋をリノベーションして、宿と共にオープンした。
子供がいなかった伯母に代わり、屋敷を引き継いだ店主の田村正太郎さんはいう。
「正直なところ、自分の仕事もあったし、母屋だけでなく蔵や広い庭もあるから管理も大変。もうこんな古くてボロい家、どうにもならないと思っていました」
解体も視野に入れ業者に見てもらったところ、「この建物はすごい。億出しても建たんやろう。つくろうと思っても、今ではもうつくれん」と驚かれたそう。
古民家で見られる職人の技術や建物に使われる建材は、今では再現できないものや手に入らないものがほとんど。

店舗の片隅に置かれたショーケースには、この屋敷の歴史を物語る様々な遺物が飾られている

店舗の片隅に置かれたショーケースには、この屋敷の歴史を物語る様々な遺物が飾られている

少しずつ片付けをしていくうちに、小さい頃から慣れ親しんだ懐かしい思い出があふれた。
コロナ禍で生活に制限がかかる中、これだけの建物と敷地があれば何でもできるのではと、田村さん自身の意識が変わったのだと話す。
田村さんがこだわったのは、あるものをできるだけ残して活かしていくということ。
間取りもほぼ変更がなかったので、着工から半年ほどで改装は完了。蔵に残っていたものなど、使えるものはあらゆるところで活用した。例えば天井照明などは、古い農具を使っている。
変えたのは、厨房と玄関、トイレ。玄関扉を広くし、店内は玄関口から中庭まで靴を脱がずに歩けるようにと、畳を剥がし土間床に。床面は砂利を混ぜた炭モルタルのプレートを敷いた。継ぎ目に、柔らかで融通のきく真鍮を流し込んでいるのが、金継ぎのような良いアクセントになっている。

店舗の片隅に置かれたショーケースには、この屋敷の歴史を物語る様々な遺物が飾られている

田村さんのお気に入りの場所を聞くと、天井にわざと残した昔の配線と、中庭に立つ昔懐かしい木製電柱ですと笑う。
使用していないにも関わらず、昔の配線を残したのは、碍子(がいし)と呼ばれる、電線と建物との間を絶縁するために用いる器具が、今では珍しい磁器でできていたからだそう。
「実は、庭に電柱立てるのが夢だったんです。それも電灯付の木の電柱」と、少年のように目をキラキラとさせる。

田村さん手製のおくどさん。最初は赤で塗装したのを黒に塗り替えるなど、試行錯誤してつくったそう。 宇多津の古代米を使うなど、食材はできるだけ地元のものを使うという

「ここは母の生家です。母の姉である伯母から、『正ちゃん。私に何かあった時は、この蒲生家のこと頼んだで』と、いつも言われていました」。
伯母が亡くなったのは、奇しくも田村さんの誕生日だった。カフェや宿に生まれ変わった屋敷を、がもう家と名付けたのは、伯母との約束を果たしたい思いからだろう。

草葺の屋根に重ね葺きした銅板の緑青が、鈍色の瓦に美しく映える。長い歴史を重ねてきたその堂々とした佇まいの古民家は、150年の時を超えてもまだ現役だ。

庭に残されていた瓦で、田村さんが作ったオブジェ

店舗外観。30年前に張り替えたと思われる屋根の銅板。年月をかけて緑青を帯びることでその風格が増してゆくよう

 

〈リノベとさぬき暮らし File-63〉

がもう家

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