山と海とのどかな昔暮らしを満喫する

山と海とのどかな昔暮らしを満喫する

宿から広がっていく町づくりの輪

瀬戸内海の凪いだ水面に、幾重にも弧を描き島と島を結ぶ瀬戸大橋。五色台のまわりをぐるりと海に沿って走る県道16号高松王越坂出線は、橋と内海の美しい景観を眺望できる人気のドライブコースだ。

道線上の坂出市王越町は、三方を五色台の山に囲まれた、まるで隠れ里のような場所にある。

その集落にある「囲炉裏の宿 木乃古」は、囲炉裏だけでなく、かまどや五右衛門風呂もあり、グランピング気分で昔の暮らし体験ができる一棟貸しの宿だ。

玄関土間から部屋に上がればすぐに囲炉裏がある。魚形の横木が愛らしい

「ここは、僕が子どもの頃に通っていたそろばん塾でした」。

オーナーの谷本和也さんは、この町で生まれ育った。

地元で建設業を営んでいることもあり、縁があって二年程前にそろばん塾の先生からこの家を譲り受けた。最初は明確な計画も形にしたい図面もなく、ただ潰したくない思いで改修、改築をしていたという。

「ここを残し維持していくためには、この家自身で収益を上げる必要がありました。かまどと五右衛門風呂は最初からあったので、じゃあ『リアルで昔の体験ができる民宿』が良いんじゃないかと」

と言っても、自分でかまどを使ってご飯を炊いたり、薪でお風呂を炊くのは初めてという方がほとんどだろう。そんな人のために、宿泊予約客にはあらかじめ、YouTubeで使い方の動画を送るそう。宿にもそれぞれに取扱説明書が用意されているが、ガス、電気も完備され、食材の提供もあるので、たとえ薪に火が起こせなくても不安なく楽しめる。

何より、受付で対応するのは地元の方なので、地元の情報も教えてもらえるのだとか。

囲炉裏の奥にはモダンな洋室もある

寝心地快適なホテルのような寝室

小さい頃から古い家が怖かったという自身の体験から、怖くない古民家にしたいと、寝室などの手に触れるところは新しくして清潔感を出しつつ、できるだけ古民家らしさを損なわないように気を配ったそう。

お気に入りはやはり囲炉裏。かまどや風呂で炊いた薪の炭を焚べ、鍋をかけたり、串に刺した魚を炙りながら火を囲んだ団欒は「めっちゃ楽しい」と満面の笑みを浮かべる。

 

民泊を経営することは初めてだったが、民泊経営者によるコミュニティを通じて多くの仲間が助けてくれた。

「宿泊業を実際に行っている方たちの意見は貴重でした。例えば、家のお風呂なら中開きだけど、宿は外開きにしないといけないとか。そんな宿ならではの規定や、実際に宿泊客を受け入れてからでないとわからないような事をたくさん教えてもらえました」。

知っているのと知らないのでは全く違うと話す。客の動線にまつわることや、外国の方にも安心して利用してもらえる対応方法など、宿泊業を始めてから気付き慌てることが多々あるのだとか。

昔懐かしいかまど。お米を持参しなくても、横の棚にあるお米の量り売りで購入もできる

外側の薪をくべる部分はそのままだが、お風呂の釜は新調し内装も新しくした

地元で町づくりも率先して活動している谷本さん。

「ここをきっかけに、近隣にいろんなコンセプトの宿を増やして、ちょっとした宿泊エリアにしたいです。町に新しいものを作るんじゃなくて、町にあるもの、奥地にある池とか神社とか、本物の田舎の自然に触れて楽しんでもらいたい。海があってみかん畑の斜面があって。王越町だからこそ残っている自然美あふれる魅力と、ここでしか味わえない体験がいっぱいある事を、もっと多くの人に知ってもらいたい」。

たくさんの人たちが自主的に関わってくれる中、思いがけず励みになったのは地元の人からの応援だった。長年、地域に密着して仕事をしてきた地元企業だからこそ、築いてきた信頼がある。この宿をきっかけに町が活性化してくれたらと、温かく迎えてもらえたそうだ。そのおかげもあり、地元雇用や移住者の受け入れ、それに伴って店舗の誘致など、今、嬉しい連携が少しづつ広がっている。

中二階のある倉庫を改装したキッチンスペース。ガスコンロに電子レンジ、鉄板焼きの台なども揃っているので、活用方法はさまざま

玄関に置かれた古いそろばん。家の歴史の一部だ

 

〈リノベとさぬき暮らし File-64〉
囲炉裏の宿 木乃古

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