人と人との縁を生み、歴史をつなぐ場所

人と人との縁を生み、歴史をつなぐ場所

情緒あるシンプルさを基調に

すっかり黄金色に染まった讃岐平野を抜け、山襞が交互に重なる讃岐山脈に向かって車を走らせる。「サイトウコーヒー」はその麓にある。車を降りると、町内にある讃岐七富士の一つ、白山まで届くかのように、虫の声が鳴り響いていた。駐車場の坂の下にある小屋からこちらを見つめる山羊の脇の軒下には、収穫したばかりのさつまいも。さらに下ると、実がつき始めた柿の木と、二輪の彼岸花。その奥には、戦後すぐに建てられたという納屋の深い軒が見えた。こちらが「サイトウコーヒー」。かつては収穫した作物を並べ作業していたであろう情景を想像しながら、大きな梁の間から漏れる白熱燈の柔らかい明かりに誘われ中へ入った。梁をそのまま残した吹き抜けからは自然光が降り注ぎ、豆電球よりもはるかに明るく店内を照らしている。

絵本を五冊寄付すると、ブレンドコーヒー一杯と交換できる。お金ではできない価値の交換

藁を混ぜて塗られた土壁と経年の味わいを残す梁は、かつての暮らしを思わせるかのよう。当時の趣きをそのまま残した素朴な空間に、新しく置かれたヨーロッパからの輸入家具。それらが調和してシンプルながらも瀟洒な雰囲気を醸しだしている。

自家焙煎コーヒーを淹れて、迎えてくれたのは、オーナーで移住五年目の齋藤博史さんと優子さん。小さいながらも丁寧に循環する自然の中の生活に憧れ、前々から移住地を探していたそう。そんな時、ふと目に留まったのが香川県。友人が三木町出身だったこともあり、縁を感じ三木町への移住が決定した。

「昔ながらの風景と古民家ならではの、二度と再現できないつくりを大切にしたい」と当初から古民家にこだわっていたという。ドライブをして気になる空き家を見つけては、不動産屋さんに連絡し場所を探した。移住から四年が経ち、集落の中で繋がりができ始めたころ、ようやくこの家に巡り合うことができたのだそう。

齋藤さんお気に入りの店をリノベーションした岡昇平さん・広瀬裕子さんに改装を依頼した。設計だけでなく、使うお皿などお店づくりのアドバイスもしてくれたそう。現在もよく相談にのってもらう仲

この場所にあった布団箪笥はレジカウンターに。庭に咲くユーカリの葉が色を添える

納屋には、農業の傍ら、富山の置き薬屋として働いていた前の住人の商売道具が至るところに残されていた。この建物の歴史を知ったとき、薬剤師としても働くご主人は、出会うべくして出会った家だと感じたという。
こうして人の縁が繋がり生まれたカフェは「暮らしを伝える場」として人と人、暮らしが繋がっていく場所となった。
ふわっと香るコーヒーで一息ついたとき、外の世界から切り離されたかのように、ゆったりとした時間が流れる。窓から吹く風に、はっと我に返り改めて秋の気配を感じた。まだ青い紅葉と金木犀に、来る季節への期待を膨らませ、サイトウコーヒーを後にした。

人気の窓際の席

築約93年の母屋の外壁は、空襲を逃れるために白い漆喰壁を墨で塗った跡だと、お客さんから教えてもらったそう

 

〈リノベとさぬき暮らし File-20〉
サイトウコーヒー

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