case 06ー 物件コーディネーター / INTERIOR DESIGN GUIDE 2025

建物とインテリアが
お互いを生かす組み合わせ
昭和の小学生が、学校の帰り道にちょっとした木立を見つけて、木の端くれや枝で小さな隠れ家を作った。大人になった小学生は、瓦町の駅裏で見つけた古びた建物がお宝に見えて、事務所でも自宅でもない第三の居場所を作った。
変わった物件ばかり扱っている、と噂に聞く筒井正広さんを訪ねた。小さい屋号のシールがぺたっと貼られた外灯、その横の急な階段を慎重に上がると、意外と広いベランダっぽいスペースの傍に小さなドアがあった。ノックするのに少し躊躇するアジトの雰囲気だが、丸っこいドアノブだけはピカピカの銀色で、なぜかラブリィという言葉が過る。

緊張を和らげるドアノブ
自分の好きなものが
エリアにあれば楽しい
ひとりで不動産業を営む筒井さんは、趣味と好みをここに持ち込んで、赴くままにレイアウトしている。骨董市や雑貨屋でビビッときたものを倉庫替わりの部屋にストック。取材日には、2〜3日前に買った大鋸を、この場所にはコレだろう、とセットしたばかりで、隣には竿秤と釿が並べられている。大工仕事をしているわけではないが、「もともと木が好き、住宅が好き、山が好き。次不動産やなと思った」という変遷だ。不動産の世界に入る前は森林組合で働いていた。ちなみに、大鋸は実家をリノベして使っている建物にもう一つ置いてあり、釿は10本くらい持っている。


インテリアや素材を
建物と組み合わせる
筒井さんの感性で並べられた古道具のある「コピーの部屋」(コピー機があるから)には、ここに置きたかったという高価そうな昔の木製デスクや、昭和時代によく見かけた照明などのほか、側面の柄が個性的な棚もある。「無駄がデザイン」と筒井さん。「無駄」とは本来の機能に関係ないという意味で使われている。
「昭和レトロ」とひと言で片付けられない様式。一癖あって型にはまらない。建物の年代に即したインテリアや素材の組み合わせだ。
それは筒井さんらしい不動産業に通じる。魅力を感じる物件を探してきて、借りる人にはインテリアの話もする。
「うちのお客さんは、この場所へ来ていいなぁと思える人でしょうね。例えるなら、商店街ではなく脇道を好むような」
テナントも多く扱い、「商売している人は意外性がないと意味がない」と、普通の不動産営業とは違ったアプローチで「考え方が表現できるような場所」を提案してくれる。広さや設備などの条件ではなく、「どんな好みか、テイストか、それが生きてくる。人となりが店に反映する」と。そんな筒井さんが手がけた物件は、あの北浜エリアをはじめ県内各所に増殖している。俯瞰してみれば、たぶんお宝の地図になるだろう。
住宅でも同じだ。建物だけじゃなく敷地全体で、庭や植栽の組み合わせ、調和を見る。
「置いてるクルマも含めてね(笑)」
アールと
フォルクスワーゲン
左の写真の木、道具、先に書いた大鋸と釿。共通点は「アール」。曲線や曲面が昔からずっと好きで、愛車はビートル。部屋のあちこちにフォルクスワーゲン関連のグッズがある。いすゞの117クーペやバックドアが曲面のホンダシビックにも乗った。
「乗り心地じゃない。好み」
好きかどうかで決める。シンプルで潔い。もし迷っても戻ることができる。物件やインテリア以外の選択においても筒井さんのベースにあるのだろう。
POINT! >>> 漆喰の壁も船底天井も内装も、もとのまま。ただ念入りに掃除しているだけ。当時のトレンドが、今また新しいもののように見える


壁紙が剥がれてきても額をかければおしゃれに隠せる

ふと見上げると豪華なシャンデリア。怪しい期待感

山で拾ってきたという木の一部。幹や枝がいくつかに分かれているちょっと複雑な形状だ。掛時計を挟んで向こう側にはユニークな形の古道具も飾られている。うなぎを引っかけるためのものだそう

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筒井 正広
物件コーディネーター | 有限会社 セイコウ| 香川県木田郡生まれ。不動産を探している人の考え方や好みに合わせて、素材やインテリアの組み合わせまで含めた物件を紹介する