古き佇まいが、いま新たな未来を紡ぐ ~アキリノ編集部体感レポート~
香川県の西端、瀬戸内海からのやわらかな光と、讃岐山脈の稜線に見守られる観音寺市。穏やかな気候のなかで、季節は静かに巡り、秋になると、ちょうさ祭りの太鼓の音が町の奥まで届きます。人々の暮らしとともに、時間が折り重なってきた土地です。
観音寺市池之尻町は、そんな町の中でも古くから住まいが連なってきた場所。華やかさはないけれど、日々の営みが積み重なってきた、落ち着いた空気が漂います。その一角に、古民家の記憶を受け継ぎながら、今の暮らしへと静かに手を入れたリノベーション展示場が完成したと聞き、訪ねてみることにしました。

リノベーション後の外観。右は施工前の様子
池之尻町の住宅地の家並みに自然と溶け込む築46年の日本家屋。長いあいだ町の暮らしを見つめながら、静かに時間を重ねてきた住まいです。その建物はリノベーションによって新たなかたちへ。過去を受け継ぎながら、いまの暮らしに寄り添う展示場として生まれ変わりました。
このリノベーションを手がけたのは、三豊市山本町を拠点とする大河内工務店。創業から73年、現在は二代目がその歩みを受け継ぎ、三豊市財田町や山本町を中心に、住まいづくりと向き合い続けてきました。「家は、大工がつくるもの」。そして、手を入れ、直し、住み継いでいくのもまた、その家を知る大工の役割。そんな昔ながらの考え方のもと、新築に限らず、住まいの手直しや修繕も自然な流れとして引き受けてきたといいます。
近年では、暮らしそのものを見直すような、大がかりなリノベーションの相談も増え、「実際に、どこまでできるのか。どう生まれ変わるのかを、きちんと体感してもらいたい」。そんな思いから、築46年の一軒をリノベーションし、展示場として公開したのが2025年7月のことです。

素敵な庭がお出迎え
敷地の広々とした駐車スペースに車を停めると、私たちを出迎えてくれた美しい日本庭園。街なかにありながら、まるで山中に佇む別荘のような「市中山居」をイメージして造られたもので、その存在感に思わず息をのんでしまいます。聞けば、この佇まいは新たに手を入れて造られたものだそうで、その巧みさに驚かされます。

玄関をくぐると、薪ストーブが静かに佇み、開放感のあるもてなしの空間が広がっていました。迎えてくれたのは、大河内工務店の靭恭彦(うつぼ・やすひこ)さんと国土美樹(こくど・みき)さん。お二人の案内で、ゆっくりと展示場を巡ります。
二間続きの和室の一間をホールとして吹き抜けに改装した「暖炉の間」は、天井を高く取ることで、のびやかで落ち着いた空間へと生まれ変わりました。部屋の中心に据えられた、端正な佇まいの薪ストーブが、訪れる人をやさしく迎え入れます。
取材当日は大寒波の影響で、外気は厳しい冷え込み。それでも、薪ストーブから伝わる柔らかな温もりに、思わず肩の力が抜けました。炎のゆらぎを眺めながら、冷えた身体をゆっくりと温めていくうちに、心までもが満たされていくのを感じます。
浴室の脇には内坪庭が設けられ、まるで家の中に小さな中庭があるかのよう。住まい全体に、さりげないもてなしの趣向が息づいていました。

三面ガラスでダイナミックな炎を楽しめる薪ストーブは、JOTUL(ヨツール)F520HT。就寝前にくべた薪のぬくもりが、朝までやさしく空間を包み込みます

できるだけ構造をそのままに活かした8帖の和室。書院や床の間は当時のままで、元の持ち主が丁寧に手をかけてきた痕跡が感じられます。新調した畳と、明るいトーンに塗り替えた壁が空間にやさしい表情を添え、さらに欄間の上部を一部開放することで、伸びやかな広がりが生まれました。古き良き風情を、いまの暮らしの中で味わうことができます。
広めの広縁はフリースペースとして活用され、作業やくつろぎの場としても心地よく、日常に静かな落ち着きをもたらしています。

天井の装飾や照明など、当時の設えを活かした広縁

暖炉の間の右手には、3部屋をつなげて生まれた広々としたLDKがあります。もともと暗かった和室には大きな掃き出し窓を設け、新たに作られたウッドデッキと一体化。リビングからは庭とデッキの景色が一望でき、開放感に満ちています。
空間全体には間接照明が柔らかく灯り、落ち着いた雰囲気を演出。リビングからダイニングへは、あえてダウンフロアにすることで空間に奥行きと変化を生み、暮らしに自然なリズムを与えています。

カウンターでリビングダイニングとキッチンを緩やかにゾーニング。構造上撤去できなかった柱も空間のアクセントに

キッチンの背後に新設されたパントリー
キッチンは「ウッドワン」の無垢の木を使った温もりあるデザイン。食洗機はミーレを採用し、機能性も確保。対面式カウンターになっているため、リビングやダイニングにいる家族と会話を楽しみながら料理をすることができ、日々の暮らしに自然なコミュニケーションが生まれます。

浴室は、ヒノキを用いたラグジュアリーな空間。壁はタイル貼りとし、腰から上には木目が美しい縦ストライプ状の本物のヒノキをあしらっています。ガラス越しの窓の先には内坪庭が広がり、湯に浸かりながら、外の気配を静かに感じられる設えです。

和室の奥に設けた、新しい寝室。天井には梁を現し、昔ながらの住まいの趣を残しました。シンプルな内装に間接照明を添え、静かに心と体を休められる、落ち着いた空間になっています。

階段は位置を見直し、新たに設けられました。二階へ上がると、少し意外な空間が現れます。階段を上って右手の洋室に入ると、あえて天井や壁に施した断熱材や構造材がそのまま見える状態に。普段は完成後に隠れてしまう、耐震や断熱工事の途中経過を、実際に確認できる部屋です。断熱性能を高める内窓も設置され、訪れた人がその違いを体感できる場所となっています。
大河内工務店では専用のプログラムを用い、既存の間取りに対して、どこに耐力壁を入れると最も効果的かを検証しながら、具体的な提案を行っていると教えてくれました。

左:真夏は特に、外気温との差を実感できる内窓、 右:一文字瓦葺きに葺き替えた屋根瓦。軽量化を図ることで耐震性を向上させたそう
案内してくれた靭恭彦さんは、もともと大河内工務店の施主のひとり。実家のリノベーションを通して、大工の技と仕事ぶりに触れ、住まいづくりへの共感から、現在はスタッフとして携わっているそうです。「意匠性と性能、どちらかを選ぶのではなく、両立させること。新築・リノベーションを問わず、香川県産ヒノキをはじめ、木にこだわった住まいづくりを行っています」と靭さん。住まいの随所に施された細やかな工夫からは、安心して長く暮らしてほしいという思いが、静かに伝わってきました。

撤去した壁にはアイアンの筋交いを入れ、耐震補強も施されました
「よみがる家」を訪れて感じたのは、古い家を直すことは、過去を残すことではなく、時間を受け止めながら、これからの暮らしに必要な性能と心地よさを丁寧に重ねていくこと。その誠実さが、展示場の随所に表れていました。
「家は家族の一員」。建て替えではなく、今ある家を生かすという選択。その可能性を、目で見て、空気を感じながら考えられる場所がここにはあります。

大河内工務店
千棟を超える住まいに向き合ってきた経験と職人の確かな技術で、
一棟一棟に寄り添うリノベーションをご提案します。
三豊店 /香川県三豊市山本町辻604番地
tel./0120-63-4920
営業時間 / 9:00〜18:00 定休日 / 水曜日・年末年始・お盆
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